法政大学大学院
政策創造研究科教授

坂本光司

1947年、静岡県生まれ。福井県立大学教授・静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長および同大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBA)兼担教授。国・県・市町や商工会議所等団体の審議会や委員会の委員も多数兼務。専門は中小企業経営論・地域経済論・福祉産業論。著書『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)は刊行直後からメディアを賑わし、現在につづくロングセラーを記録。今では30万部を超え、2009年を代表する1作に数えられている。

世の中に用いられる「大切にしたい会社」になるために

世の中に用いられる「大切にしたい会社」になるために

青木仁志
青木

本日は、2008年4月の刊行以来、2009年末までに30万部を超えるベストセラーとなった『日本でいちばん大切にしたい会社』の著者でいらっしゃる法政大学大学院の坂本光司教授にお越しいただきました。
机上の空論に陥りがちな学問の世界から飛び出し、実に6300社を超える中小企業を訪ね、週に2回はフィールドワークとしてゼミ生を伴い、ありとあらゆる業界の現場を見ていらっしゃいます。私も営業の世界のたたき上げでトップを走ってきましたから、坂本教授の現場主義には非常に共感するものがあります。今回はアチーブメントが掲げる理念経営と、坂本教授が追求されてきた、世の中に必要とされる〝元気印企業〟の経営のあり方に関してお話を聞かせていただきたいと思っております。
さっそくですが、数多くのフィールドワークをされて、元気印企業に共通しているものは何だとお感じになりますか?

坂本光司氏
坂本氏

元気印企業は資金力・販売力・規模・システムではなくて、経営者が人生観や使命感を非常に大切にしています。すべては経営者の姿勢・人格にかかっているといっても過言ではありません。ですから御社が事業として人財教育、とくに経営者教育に取り組まれていることは素晴らしいですね。

青木仁志
青木

ありがとうございます。数々の現場を見てこられた坂本教授にそう言っていただけますとうれしいです。坂本教授はご著書のなかで〝人材〟を〝人財〟と表記されていますね。

 坂本光司氏

坂本光司氏
坂本氏

はい。大学の教科書をはじめとした私の携わる出版物は、すべて〝人財〟で統一しています。人を財産だと思えば切ったり貼ったりするリストラのようなことはせず、大切にするでしょう。経営学では、資本集約型・技術集約型……と数々の形態が論じられますが、もうひとつ上のレベルとして〝人財集約型〟を提唱しています。一に人財、二に人財……あとは人間のための道具に過ぎないと思いますね。少し言い過ぎたでしょうか(笑)。

青木仁志
青木

いえ、その通りだと思います。お恥ずかしい話ですが、私自身は自分が経営者になったなと感じたのは、新卒の新入社員が入社してきたときでした。上場企業を蹴ってまで入社してくる子たちのご両親のためにも、まずは社員が主体的に学び、働くことができる環境づくりを常に考えています。

坂本光司氏
坂本氏

組織の長の姿勢は本当に大事です。人財教育という事業だけでなく、社員一人ひとりを育成するという強い意志を感じますね。そういった青木社長の想いに社員が応えている。

 青木仁志

青木仁志
青木

ありがとうございます。坂本教授こそ、先日、一国の内閣総理大臣を動かされましたね。10月26日に行われた所信表明演説で鳩山首相が日本理化学工業(※)についてお話されたのは、坂本教授の書籍がきっかけになったとお聞きしています。

坂本光司氏
坂本氏

泥だらけの研究生活を送ってきましたから、研究の成果が国のトップに伝わっていることは非常にうれしく思いました。いつも私は、私が年寄りならば、手足がなかったならばと考えることから、研究をしています。教育者を天職にしている限り、現場に出ていこうと思っています。理論のこねくり回しは必要ありません。愛の経営学と同じです。社員に対する愛、お客さんに対する愛、下請けさんに対する愛、地域に対する愛……です。

社員の幸せが顧客の満足を生み、企業は世の中から支持を得る

青木仁志
青木

本当にそうですね。私も会社よし、顧客よし、社会よしの〝三方善し〟を伝えていますが、全人類に注ぐ愛のまなざしが企業経営の根幹ですね。愛の経営にあたり、大事にしなくてはならないことは何でしょう?

坂本光司氏
坂本氏

社員にとって、社員の家族にとって、お客さんにとって、地域にとって、〝正しいか、正しくないか〟で判断しなさいと話しています。現状の一般的経営論は、勝つか負けるかといったことが判断基準になっていますが、正しいのは幸せであることなんです。みんな、幸せになりたくて生きているんですから。会社は組織に関連する人すべての幸せのために存在するんです。

青木仁志
青木

自分を中心に原則を回すのではなく、原則を中心にして自分が回るということですね。自分が周りによい影響を与え、世の中の役に立っていれば、それが報酬という形で自分に返ってきますよね。

 坂本光司氏
坂本光司氏
坂本氏

その通りです。〝元気印企業〟か否かは数字が証明します。その指標の一つが10年間の売上高経常利益率です。世の中に必要とされる元気印企業は好不況も関係ありませんから、10年間毎年5%以下にならないのです。私が見てきた6300社の中で該当する企業は1割程度ですね。千葉県の鴨川に亀田総合病院という、37000人の人口に対して1000床の病院があります。域外からもわんさか患者さんが押し寄せ、昭和60年以降、毎年数億から数十億の利益を出しています。なぜか。社員が満たされているから、患者さんもいい診察を受けられ、みんな幸せになれるんです。理事長と病院長は「私の最大最高の仕事は、医師と看護士と技師とスタッフの健康と生活を守ることです」とおっしゃっていました。矛盾しているようですが、患者さんが「もう一度入院したくなる病院」と言っています。

青木仁志
青木

それは素晴らしい病院ですね。自らが満たされて、他者への愛情が生まれたとき顧客を満たし、そこではじめて社会の公器として利益を生み出す会社になります。弊社でも社員の家族に対する私たちの感謝の表現として、毎月社内報を発行しています。また、昨年はスポットスポンサーをしたF1の観戦に全社員とともに参りました。社員は会社の苦労を知っていますから、会社の成長を感じて全員感激して泣いていました。

坂本光司氏
坂本氏

一人ひとりにフォーカスし、細部にこだわって徹底した経営をされているんですね。人財教育という業種だからではなく、人として社員を大事にされていると感じます。

青木仁志
青木

ありがとうございます。私は経営理念のなかで、「全社員の物心両面の幸福の追求」ということも掲げています。坂本教授の考える企業理念、経営理念とはどのようなものですか?

坂本光司氏
坂本氏

企業理念、経営理念とは企業の存在目的、何を通じて世のため人のために貢献するかという社会に対する宣言文です。事業の根幹をなす部分ですが、現実にない会社は多いです。あるといっても会社ありきの経営理念で、儲かればいいといったような。しかし、もし乗っている飛行機に方向舵がなかったら不安ですよね? 大切にしたいと思える会社は、共通項として理念がいいことが挙げられます。創業時はなくても、京セラさんのように途中で変えればいいのです。

青木仁志
青木

本当にそうですね。私も書籍やセミナーを通じて理念経営の大切さを説いてきましたが、坂本教授にそうおっしゃっていただけると、自分は間違っていなかったんだなと改めて確信を持つことができます。

「大切にしたい会社」を広げるミッション

坂本光司氏
坂本氏

青木社長の理念経営に関する活動については、私のゼミの生徒から話を聞いたりして、同じことを言っている人がいるんだなと関心をもっていました。〝元気印企業〟の第一の特徴は、「魅力的な経営者が存在していること」です。青木社長はこれまでの生い立ちの中で非常にご苦労されていると聞いています。そういった青木社長の原点から発せられるよい社会の創造への使命感は、社員をはじめ多くの人の心を打ちますね。

青木仁志
青木

ありがとうございます。全国の中小企業に理念経営を広げ、世の中全体を明るくし、いじめ・差別のない社会を実現していくことが私の命の使い方です。忌憚なくおっしゃって頂きたいのですが、坂本教授は弊社をどのように感じられましたか?

 坂本光司氏

坂本光司氏
坂本氏

いい会社だと瞬間的に感じました。何千社と会社を訪問してきましたから、電話一本、玄関への一歩だけでわかります。社員の雰囲気とか社風とか、そういった総合的なものです。しかしね、すべて経営者ですよ。格差社会といわれて久しいですが、私は経営者格差が起こっているのだと思います。会社の格差は経営者の格差です。〝元気印企業〟経営の秘訣も、すべては経営者が、社員、社員の家族、社外社員ともいえる外注先の企業、そして顧客に対する影響力の大きさを自覚することからはじまるのです。青木社長は人財教育の事業を通して、私は講演や書籍を通じて、お互いに大切にしたい会社をつくっていければいいですね。

青木仁志
青木

本日は本当にありがとうございました。感謝の出会いであるとしか申し上げられません。最後に、読者に向けて応援のメッセージをお願いできますか?

 坂本光司氏 × 青木仁志
坂本光司氏
坂本氏

私はこの世に神様がいるんじゃないかと思っています。いい加減な経営者は自然に滅びていきますが、正しい経営は滅びないことを歴史は証明しています。いつもブログに書くんです。「さあ、今週も前へ前へ頑張りましょう」と。「前へ前へ」はラグビーの用語ですが、未来に向かって歩こうという意味です。過去を変えることはできなくても、今日と明日は変えることができる。もし昔はよかったとか、こうすればよかったとか考える時間があるなら、今日と明日を変えましょうと。そうみなさんにメッセージしたいですね。

青木仁志
青木

力強いメッセージをありがとうございました。

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