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レーシングドライバー
平川亮氏
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アチーブメント株式会社 代表取締役会長 兼 社長
青木 仁志
世界の頂点という目標を実現さらなる夢へ向かう架け橋へ
2013年にF3デビューを果たして以降、数々のレースで最年少優勝記録を樹立してきた平川亮選手が、また一つ新たな勲章を手にした。世界三大レースの一つとして知られるル・マン24時間レースのデビュー戦において日本人最年少での総合優勝を果たし、2022年のシリーズチャンピオンを手にしたのだ。18歳のときに初めて『頂点への道』講座 スタンダードコースを受講して以来、つねに世界のトップを目指し続けてきた平川選手の晴れて世界の頂点に立ったいまの心境と、この先のさらなる目標や夢について、アチーブメント株式会社 青木仁志が話を聞いた。
「平常心」でいられるか否かそれが勝敗の分かれ目
ル・マン24時間レースの優勝並びにWECでのシリーズチャンピオン、おめでとうございます。2012年に全日本F3で最年少優勝を果たして以降、2017年にSUPER GTの史上最年少チャンピオン、2019年にはスーパーフォーミュラ優勝など、素晴らしい実績を挙げてきましたが、ついに世界の頂点へ立ちました。
ありがとうございます。「世界の頂点」というのは少々おこがましく、正直まだあまり実感が湧いてこないというのがいまの心境です。支えてくださった多くの方々のおかげです。
F3のシリーズメインスポンサーとして、アチーブメント社はこれまでさまざまなサポート活動を行なってきました。そうした支援の一環であるスカラシップ制度を活用し、F3デビュー当時に『頂点への道』講座 スタンダードコースを受講していただきましたね。その頃から一貫して世界の頂点に立つということを目指し、10年を経て目標を達成されました。本当に素晴らしいことです。
初受講のときは18歳でまだ若かったということもあり、内容にかなりの衝撃を受けました。講座で成功哲学や戦略思考、心理学、時間管理技術、目標設定方法などの目標達成技術を学び、目から鱗が落ちる思いがしました。それ以降、長期目標と中期目標、短期目標を明確に設定し、逆算思考を実践し続けることで、ここまでたどり着くことができました。
成功哲学を体現した活躍を間近で見守ってきた私としては、感慨もひとしおです。強豪ひしめくル・マン24時間レースに参戦し、総合優勝を果たせたポイントは何だと思われますか。
メンタルがもっとも重要だと思います。ル・マンともなると、ドライビングテクニックは皆一流で、大きな差はありません。そこで勝敗を分けるのはメンタルです。大舞台でも、いつもの自分の走りに徹する──。いかに「平常心」でレースに臨めるかということが重要だと感じました。
なるほど、大いに納得できる話です。宮本武蔵は剣の道において肝要なこととして、平常心を挙げています。たとえば畳の縁に乗って渡れといわれれば、誰もが渡れます。しかしそれと同じ幅の縁が高い場所に架かっていた場合、そうはいきません。高さに対する恐怖心や不安感、動揺などが生じ、平常心ではいられなくなるからです。そうした気持ちの在りようが勝負を決するということを、武蔵は語っているのです。
下のカテゴリーのレースでは自然にできていたことが、ハイレベルなクラスでできなくなるということが多々あります。それは技術の問題ではなく、実はメンタルな部分が大きいのです。いかに自分を信じて、平常心で臨めるか否かということが、タイムに反映されます。
ル・マンでは最高速度が時速330㎞になると聞きました。極限の状況で、プロ同士がギリギリの勝負をするわけですから、心の在りようは大きな影響を及ぼすのですね。
パワーパートナーとの団結を固めて逆境を乗り越える
マスコミで平川さんについて語られる際、「最年少記録」とか「史上最年少チャンピオン」などというフレーズがついて回ることが多いですね。そうしたことから、つねに順風満帆に歩んできたレーサーだという印象をもつ人がいるかもしれませんが、18歳のころから見守ってきた我々としては、必ずしもそうではなかったと感じています。大きな壁にも直面されましたね。
はい。つねに順風満帆だったわけではなく、挫折を味わったことは何度もありました。私はレースを始めたときから一貫してF1を目指してやってきて、トヨタさんのプログラムにも参加していましたが、同社が2009年にF1から撤退することが決まりました。その際は大きな喪失感を味わうことになりました。しかしトヨタさんは世界耐久選手権に参画していたので、そこで世界にチャレンジするという目標を立て、日本人トップのみが得られるシートを目指し、ライバルたちとしのぎを削ってきました。その結果2017年にはSUPER GTのチャンピオンになれたのですが、その後海外に渡ってから勝てない時期が続きました。何度も苦杯を喫し、挫折感を味わっていました。ですが落ち込み切ったときに、逆に心に火が点いたんです。
下降し切ったところで上昇に転じた、そのとき思考や行動に変化はありましたか。
以前はがむしゃらにやっていましたが、考えてレースをするようになりました。速く走る技術の追求はもちろんですが、それだけでは勝てません。マシンをいかに良い状態にセッティングするかということも大事なので、エンジニアやメカニックと以前にも増してコミュニケーションをとり、意見をぶつけ合って、チーム力を高めるようになりました。そうしたことを繰り返すうちに少しずつ結果を出せるようになりました。
レースはチームプレイですものね。チームスタッフは、いわばレーサーにとってのパワーパートナー。スタッフの良い働きが、平川さんの勝利につながるし、逆に平川さんが自分の役割を全うすることで、チーム全体を成功に導くことができます。互いにパワーパートナーであるという認識を強め、より強固な関係を構築できたことが結果につながり、その後、ル・マン挑戦のチャンスをつかめたのですね。そうした逆境を乗り越えた経験は、その後も生きていますか。
はい、そう思います。ル・マンの場合、3人のドライバーが1組となって参加しますが、レース中は自分と組む2人のドライバーが、もっとも大事なパワーパートナー。レースウィークはもちろん、日頃からよくコミュニケーションをとるようにしています。でも何よりも大事なことは、速い選手だと相手に認めてもらうこと。ドライバーは誰もが、速く走れる選手とチームメイトになりたいと思っていますから。テストでも本番でも速いタイムを刻み続けることで、彼らと信頼関係を深めました。エンジニアやメカニックなどのメンバーも同様で、速く走れる選手でないと、車について何をいっても説得力がありません。全員が納得するタイムを出し、的確なコメントを告げる。そうすることで、初めて信頼関係を構築できます。ときにはミーティング中に激しく言い合うこともありますが、勝てる車をつくるために皆で最善を尽くしています。
そうしたパワーパートナーであるチームスタッフと、どれだけ一体感をつくりだせるかがとても大事ですね。エンジニアやメカニックのメンバー全員が、「平川亮を勝たせたい!」という思いが強くないと、やはり最高峰のレースで勝つことなどできないことでしょう。
そのとおりです。メカニックの方がネジを1本締めるにしても、気持ちが入っているか否かで、マシンのコンディションは変わると思うので。全員を巻き込むためには、当たり前のことかもしれませんが、やはり日頃の生きる姿勢や、レースにかける思いが大切だと思います。
夢をクリアにイメージするそれが実現の秘訣
世界の頂点を取ったわけですが、日頃から心がけてきたことなどはありますか。
サーキットを使える機会が限られているモータースポーツは、他の競技に比べて実地での練習時間が少ないので、レース以外の日々の過ごし方が大事です。『頂点への道』講座で学んだ、技術が役立っています。日々のプランニングは、いまでも毎日続けています。また、自分やライバルのレースの動画を観て探究したり、他のスポーツを観戦したりして、モチベーションを高めたりすることもあります。野球の大谷翔平さんや、フィギアスケートの羽生結弦さんなど、同世代で活躍しているアスリートの活躍を観ると、とても良い刺激になり、自分が世界で活躍する姿も、より鮮明にイメージできるようになります。
大谷翔平さんの出身校である花巻東高等学校を支援し続けてきた関係で、大谷翔平さんも当社のチームビルディング研修に参加されました。世界的アスリートをわずかながらでも支援できたことを、心からうれしく思っています。同世代のアスリートから刺激を受け、イメージをするのは素晴らしいですね。人間がもつ能力のなかで、もっとも価値のある一つが、「思い描いて実現する力」だと思います。鮮明なほど、成果に繋がりやすい。経営も同じで、私は自社の未来を常にイメージしています。陶芸家が粘土をこねて、思い描いた理想形を具現化するような感覚です。当社はこのコロナ禍にあって、今期、過去最高業績を挙げましたが、偶然ではありません。思い描いた理想を具現化させ続けてきた結果、手にしました。描くことが大事だということは、ビジネスやスポーツなどの分野を問わず、どの世界でも同じだと思っています。
非常に共感します。私も常にレースを考える脳になり、とても良い方向に働いています。レースの予選で下位になり、決勝のスタートポジションが下がってしまったとき、以前は過去の経験から「上がっても10番手かな…」と思っていましたが、いまはどんな状況でも、トップを取ることしか考えていません。すると、本当にそのとおりになる。青木社長がおっしゃるとおり、鮮明に描くことが大事だと実感しています。
ル・マン優勝・WECシリーズチャンピオンという快挙を成し遂げ、世界の舞台で活躍するという目標を一つ叶えたことになりますが、今後の中・長期的な目標を聞かせてください。
ドライバーとして世界一になるという夢をずっと追いかけてきて、昨年は一つの大きな目標を叶えることができました。今年の目標は、ル・マンの連覇です。そしてさらに先には、やはりF1に出場して世界一になるという夢があります。先ほどお話ししたように、これまで挫折したことや逆境に陥ったこともありましたが、心が折れなかったのは心に描く夢があったからです。そして、多くの方々に支えていただいたからだと思い、本当に感謝しています。
今年の目標とその先の夢に向かって、また力強く歩んでいけそうですね。そのような平川さんを、私たちも見守っていきたいと思っています。実はアチーブメント社は、日本テレビと資本提携しました。今後は同社と一緒にさまざまな事業を展開することになると思います。その一環で、ラジオ日本で毎週金曜日の6時に、私がパーソナリティを務める新番組を放送し始めました。いずれその番組にゲストとしてお招きするので、平川さんの夢に向かう姿勢などを語っていただきたいと思っています。
ありがとうございます。ぜひ伺わせていただきます。今はまだ遠くにある大きな夢に向かっている途中ですが、それをできる、できないじゃなくて、「やる!」という強い気持ちで臨んでいます。思い描く頂点を目指して、今後も走り続けたいと思います。
平川さんの夢の実現を、私たちも応援し続けます。本日はありがとうございました。
広島県呉市出身。レーシングドライバーとして、全日本F3選手権やSUPER GTをはじめ、数々の最年少記録を樹立。2022年には、ル・マン24時間レースの日本人最年少総合優勝記録保持者となる。2012年『頂点への道』講座を初受講。