自民党 幹事長代行 元文部科学大臣
下村博文氏
欧米の成功哲学を超える「志教育」が持つ可能性
欧米の成功哲学が 導いた自己実現
本日はよろしくお願いします。実は青木さんと下村さんは30代の頃からの旧友だということですね。
ええ、そうですね。青年会議所でお会いして、もう30年ほど前になるでしょうか。
当時から、下村さんは、「自分は文部大臣になる」と公言されていらっしゃいましたが、見事有言実行されました。
下村さん・青木さんともに、「目標の達成」というのはこれまでの大きなテーマだったと想像されるのですが、下村さんが「文部科学大臣になる」という志を立てられたのはいつ頃のことだったのでしょうか。生い立ちを含めて少しお話いただけますか。
私は、実は青木さんと同じように、人脈・金脈・家柄、全く何もないところからのスタートでした。というのも、9歳のときに、父が交通事故で他界しました。母が私を含めた3人の子どもを、女手一つで育ててくれたのです。極貧生活の中で幼少期を過ごしました。しかしそんな中で読み漁ったのが偉人たちの伝記でした。逆境に打ち勝ち、高い志で世のため人のために生きる姿に大きな感銘を受けました。
こうした自分の体験から、教育機会の平等化へと思いは膨らんでいったのです。このような思いを背景として、「政治家になって社会をよりよくしたい」と志したのは、10歳頃だったと思います。
政治家になるには早稲田だろうと、奨学金を活用し、早稲田大学に入学しました。学費と生活費を自分で工面する中で、数々のアルバイトを経験し、その中で、大学一年生のときから始めた家庭教師のアルバイトが教育への確信を深めた体験だったと思います。そして大学4年生のときに学習塾を立ち上げました。
それが「博文進学ゼミ」ですね。子供たちの劇的な成績向上だけではなく、親を対象にした「親業」というセミナーを開催されたとか。
そうですね。特に伝えたのは、「目標設定」「計画立案」「積極思考」の重要性です。加えて、親が常に肯定的な影響力を発揮しながら、いかに内発的に子どものやる気を引き出すかをお伝えしていきました。評判がどんどん広がり、多いときでは生徒数は2千人にもなりました。
そして塾を始めて、5年ほどが経過した26歳の時。当時流行っていた、『欧米の成功哲学』に従って30年後の人生設計をしたのです。そのときに立てた目標が「56歳で文部大臣になる」というものでした。実現するためには当選が5回必要だから、40歳までに国会議員になる。そのために、31歳で地方政界に出馬する…と、逆算して段階的に目標を実現させていきました。
「目標設定」「計画立案」「積極思考」というのは、まさに『成功哲学』で伝えていることですし、それを体現なさってきたということですね。
そして、58歳のときに公言されていた通りに、文部科学大臣になられたのですね。
政権交代があり、予定より2年遅れましたけどね。26歳で構築した当時の計画の9割以上は成就しています。
このたび、アチーブメント出版からナポレオン・ヒルの『成功哲学』を新訳で出版しました。私も、23歳のときにナポレオン・ヒルの『成功哲学』に出逢い、とにかくひたすら本書に書いてあることを実践し続けることで、トップセールス、トップマネジャーとなり、さらにその後のキャリアを形成してきました。無学で貧乏で、溶接工見習いからキャリアをスタートしてから、おかげさまで今では中小企業経営者教育に携わらせていただいています。
今でこそ、能力開発のプロを名乗れると思っていますが、こうした自己実現の土台にはナポレオン・ヒルの『成功哲学』があったことは間違いありません。
大切なことは単に頭の中で、漠然と思い描くだけではなく、紙に書き出してビジュアル化することです。
潜在意識に強く刻むということですね。私も、朝6回、夜6回、自らを鼓舞する暗示の言葉を使い続けました。これも、下村さんが塾で教えられていた「目標設定」「計画立案」「積極思考」と相通じるところがありますね。
お二人とも、貧しい生い立ち、まさにゼロからのスタートから、その生き方を通して、欧米の成功哲学を実証されてきたと言えるかもしれませんね。
欧米の成功哲学を超えた志教育・目的教育
ただ、私が強く感じるのが、欧米の成功哲学ではカバーできない部分があるということです。
と言いますと?
26歳で決意し、実際に58歳で文部科学大臣になった、そのときに気づいたんです。「これは目的ではなく手段だった」と。世間から見ると、「大臣になって成功した」といわれますが、私にとって、文部大臣という目標は、自らの理想とする教育理念、教育への思いを実現するための手段でしかなかったと、そのときに分かったんです。
確かに私も、ブリタニカでトップセールスになり、数多くのタイトルを目指して必死でした。そのときには達成感もありましたが、どこか空しさも感じていました。しかし29歳のときの『聖書』との出逢いによって、人生の目的に、縁ある人々を幸せにしたいという「愛」に即した目的が築かれたのです。私にとって全ての企業活動は、いじめ差別のない明るい社会を実現するための手段でしかありません。わが社の全ての研修プログラムの根幹においている選択理論心理学もそのための手段にしか過ぎないのです。
目標というのはあくまで人生の使命の中の具現化された一つではあるのですがそれが全てではありませんね。
だからこそ、アチーブメントでは目的教育を伝えていますね。
はい、私は、成就・達成の意味を込めてアチーブメントを創業しましたが、それは決して「目標達成が全て」という意味ではありません。30年間一貫して伝えてきたのは、目標の土台にある目的の価値、「目的教育」です。よく目標と目的は混同されて使われることがありますが、この二つは明確に異なります。目標、願望、夢というのは、利己的とは言わないまでも、個人的な自己実現を指していることが多く見受けられます。しかし、目的や志というのは『利他的な要素』を含んだものであり、目標はあくまで目的実現のために存在します。「企業だけではなく個人も人生経営をしている」と松下幸之助翁もおっしゃいましたが、そこから考えるならば、企業理念と同じく、個人の「人生理念」という目的が非常に重要ですね。
夢と志の違いに関しては、全く同感です。大切なのは、その目標を達成して社会にどれだけ貢献できたか、人間的にどれだけ成長したか、人格が向上したかです。もっと言うと、私は個人的に輪廻転生を信じていますから、「自らの魂がどれくらい成長したか」が問われるのだと思っています。欧米の成功哲学は、個人レベルでの自己実現については述べられていますが、その部分が理論的に甘く、そこまでまだ深掘りできていないのです。
なるほど、そういうことですね。
ただ勘違いしていただきたくないのは、欧米の成功哲学の持つ価値です。先ほどもお伝えしましたが、私自身も欧米の成功哲学をもとにして、人生の目標を設定し、自己実現をしてきました。野球界でも花巻東高校がトータルな目標設定によって選手を育成していますが、目標設定は非常に重要です。私も含めての話ですが、「凡人を非凡に変える」という意味では欧米の成功哲学は素晴らしい理論です。
私も下村さんと同じく、天が与えた不遇な幼少期から、成功哲学の実践によって自己実現してきましたから同感ですね。まずは『成功哲学』に学び、その実行から始めることが非常に重要だと思います。
ところで、青木さんの『頂点への道』講座を受講し、20年、30年後の志を立てられる方は何人くらいいらっしゃるのですか?
多くの方が10年先なら描けるようになりますが、20年、30年先となると、100人中3~5名いるかいないかだと思います。
そうだろうと思います。30年経つと社会そのものが変わってしまいますからね。今から約30年後の「シンギュラリティ」はご存知でしょうか。
AIが高度に発達して、人類の頭脳を上回り、労働時間はどんどん減少していき、今の人間の仕事の9割はロボットが代わりに行うという未来予想のことですね。
そうです。そんな時代が来るからこそ、私は今後ますます、「どう生きるか」が問われる時代に入っていくと思うのです。これまで物質的に豊かでなかった時代は、その日の生活に追われ、食べていくことで精一杯でした。しかし、誤解を恐れず言えば、それでは他の動物と何も変わりません。
将来、2045年にそんな時代が来るからこそ、「人間としての本当の生き方は何なのか」「人生とは何なのか」「生きるとはどういうことなのか」などが問われていくのだと思います。これは非常に重要な問題です。
AIに支配され、人間は仕事と一緒に生きがいまで奪われてしまうのか、それとも人間は今以上に充実した人生を歩めるのかという分岐点にいるのかもしれませんね。
30年後の志を育む教育プログラムの持つ可能性
現代では、7、8割の人が、「自分は何のために生まれてきたのか」「今世における自分の使命は何なのか」という、誰もが持っている『人生の目的と使命』が分からないまま生涯を終えてしまっています。それに気づくことは「悟り」とも言えるでしょうが、だからこそ、そうした「気づき」を持てる機会が必要なのです。これまでは宗教がその役割を担っていたのかもしれませんし、今もその部分はあるのでしょうが、まだまだ不足しています。だからこそ、そこまで突き詰めて気づきを得られるような新たな『教育プログラム』を時代が求めていると思いますね。
今、世界中を見ても、私の知る限りそうしたプログラムはないでしょう。
だからこそ青木さん、そうした自分の使命や30年後の志を育む教育プログラムをあなたが開発したらいい。
まさにこれまで、そこに取り組まれてきたわけですから、ぜひ期待したいですね。他の研究者からの意見をまとめるというよりは、青木さんがこれまでやってこられたことをまとめ、深堀りしていく中に出てくるだろうと思います。どうでしょうか。
ありがとうございます。わかりました。今、下村さんにお言葉をいただきはっとしました。「人のもつ思考を具現化させる能力開発」が私の本分ですから、必ずや実現させてみせます。
ぜひ今度は教育について、さらに深い話をしていきましょう。
目的教育の価値とこれからの教育の指針に多くの示唆をいただきました。ぜひ今後の展開に大きく期待したいと思います。