理事長
谷口智治氏
ゼロから日本一の人脈を築いた3つのルール
今回の対談は、人脈形成や企業支援を目的に全国の中小企業およびベンチャー企業の現役経営者2,000人を会員とする、全国経営者団体連合会(全経連)をゼロから立ち上げ、運営されている谷口智治理事長です。「日本一の人脈」を持つと言われる谷口理事長と青木仁志が『ホンモノの人脈』構築手法について語り合った。
ゼロから日本一の人脈を築いた3つのルール
谷口さんの著書『一流が大切にしている人づきあいの流儀』出版記念パーティが帝国ホテルで行われた際に、私も発起人の1人として参加させて頂きましたが、各界から一流の方々が出席されていて素晴らしかったです。目上の方はもちろん、谷口さんの世代を超えた交友関係の広さを感じました。この対談のテーマが「深い信頼関係で結ばれた人脈構築」であると編集部から聞かされたとき、谷口さんほどこのテーマにふさわしい方を思いつきませんでした。私は谷口さんの幅広い人脈づくりを可能にした最大のポイントは、相手の立場に立って「喜んでもらう」という基本姿勢をずっと貫いておられるということ。すなわち、日本のトップの方々が長年谷口さんとよい関係を維持されているのは、谷口さんの〝やり方〟ではなく〝人となり〟在り方なんだと思っています。それでは貴重なお時間を頂き、その幅広い人脈がどの様にして生まれたのか、本日はその一端をお聞かせ頂きたいと思います。まずは人脈づくりの原点といいますか、どこで身につけられたのか少し具体的にお願いします。
人に対する基本的な姿勢は、新卒で入社した化粧品会社マックスファクターで身につけたと思います。当時大手メーカーの化粧品に対する不買運動が起こっていました。そういう社会状況の中、会社では「お客様中心主義」を社是としていることもあり、まず入社1年目は業務の現場には入らず、徹底した顧客インタビューに借り出され、一般家庭と事業所に出向いて一日50枚のアンケートを集めました。結果、お客様が求めているものは〝化粧品を買いたい〟のではなく〝きれいになりたい〟ということが分りました。
「お客様の真の願望がどこにあるかを見つける」という貴重な経験をされたわけですね。
そこで店頭では「商品」ではなく「きれいになる方法」を伝えることに徹底し、メイクアップの講習会なども実施、結果、販売を伸ばすことができました。当時の社長は〝売らないことが、売れること〟につながると話されていましたが、本当の意味を当時の私が理解していたとは言えません。しかし〝お客様が望むことを提供することが販売につながる〟という考え方を、この時徹底して教えられました。このときの経験があったからこそ、独立後にも「お客様に喜んでいただくにはどうすればよいか」と自然に教えることができているのだと思います。
まさに「何事も自分にしてもらいたいことは、他の人にもそのようにしなさい」という黄金律ですね。この黄金律を新卒でお入りになった会社で学ばれたことで、谷口さんが豊かな人生を歩まれることを運命付けたと思います。
その後、一流の各界の方々との人脈づくりは事業の、何か明確な意図があったことなのでしょうか。
当初から人脈づくりを意識していた訳ではありませんし、私の全経連での仕事もセミナー講師依頼から始まりました。そこでセミナーに来て頂く方々に喜んでもらうために何ができるかを必死に考えるようになったのです。実業界、政治家、学者の方など一流の講師に来ていただく、そのためには何をすればいいんだろうと。この時マックスファクターで教わった〝相手の立場に立って考えなさい、相手が喜んでくれることをしなさい〟という教えが行動の基本となっています。
誠心誠意、無心に行動
全経連のセミナーといえば、サッチャー元首相をはじめとし世界の一流の方を招聘された草分けとも言えるのではないでしょうか。何か秘訣がお有りですか?
独立した当初は、有力な血縁や学閥など人脈を形作るバックボーンをもっていたわけではありません。何もないゼロからのスタートでした。海外の有名な方を最初にお招きしたのは米大型旅客機メーカー、ボーイング社の副社長でした。契約するためにアメリカに赴きましたが、英語も堪能ではなく事前にシナリオを用意してもらい交渉に臨んだほどです。そして、できることは誠心誠意、相手に気持ちを伝えることだけに全力を傾けました。その後も、相手に喜んで頂くことを徹底することで、徐々に講師としてお招きした方々や周りの方に、他の方をご紹介頂ける様になっていきました。
私が講師を務めている『頂点への道』講座でも「その人の成功が自分の成功となる人」をパワーパトナーと位置づけその重要性をお伝えしています。ところで化粧品会社から独立しセミナーを始められたのに何か動機はございますか。
私は岐阜の出身で、両親には「進学しないで地元に就職した方がいいのでは」といわれていましたし、小さい頃に頭にやけどを負って中学生から58歳までかつらを使っていたということもあり、ハンディを持っていると考え、入社当初は内向的な青年であったと思います。そんな私が諸先輩の薫陶や社内研修に参加することで「人は変われるんだ」と知り、研修やセミナーというものに興味を持ったのが、動機といえるかもしれません。
あらゆる「逆境」には、それと同等かそれ以上の幸せの「成功の鍵」が隠されていると思います。私は函館から17歳で上京、溶接工見習いからのスタートでしたが、法政大学の客員教授を3年間勤めさせて頂き、物の見方を変えることで、弱点を強みにすることができました。谷口さんもある意味コンプレックスをお持ちになっていた。それがどこかで切り替わった、ご自身が変わられた何かの出来事があったのでしょうか。
私は寛仁親王殿下との出会いの場で「100%のハンディキャッパーはいないのと同じく100%の健常者もいない、あなたが人前でかつらを外すことで人の心が解るようになります」とお話くださったことでコンプレックスを克服できました。このご縁から全国セミナーをお願いし、ご承諾頂きました。このように、私はご縁を頂いた諸先輩方から礼状の書き方や電話での会話、海外での作法など様々なご指導を頂いてきました。あるときから変わったというよりもご指導ご鞭撻を受けたことがらを愚直に実践して、今日があるように思います。
今までのお話もそうですが、人脈づくりを目指している若い人にも参考になると言いますか、谷口さんの人間関係を構築する上でのポリシー、ご自分が大切にしてきたものをあえて3つ位に絞ってお話頂けますでしょうか。
第一は、「約束を守ること」。第二に、先輩の指導や提案には「YES」。第三に、自身が弱いが故に、自分に対しての戒めとして「ごみ拾い」をしています。ここ2年ぐらいはトイレの掃除もするようになりました。何かしらちょっとした〝いいことをする〟と、何か行動する前にポジティブシンキングできるようになります。私には、モチベーションを維持する効果があります。
なるほど、人間の弱さを克服するために謙虚であろうとする習慣をお持ちになっているということですね。では人脈づくりのコツと言ったものをあと一つ上げるとしたら、どんなポイントになりますでしょうか?
誰に対してでも分け隔てなく平等に接する
野田一夫先生に塾長をして頂いている「平成立志塾」があります。塾生には、「人脈を作るパスポート・機会を提供できるが、人脈を広げるのは自身の積極的な行動だ」と話しており、セミナーや講演会はもちろん、同窓会、県人会、町内会やPTAのボランティア活動など必ず参加するように話しています。知らないコミュニティにも顔を出す、普段から人と関わるという姿勢がコミュニケーションの訓練になりますし、意外な方と知り合いになれる場合があります。一流の方には大事にされている価値観があります。思いやり、やさしさといった人間性です。決して能力や家柄といったものではないので臆することなく積極的に行動してほしいと思います。
人によっては人脈を「広く浅く」とか「狭く深く」という方もおられますが、広く深い谷口さんにとって本物の人脈とはどのようなものでしょうか?
久しぶりにあっても変わらない間柄、10年ぶりに同級生や友人に会って、普通に話ができるのと同じようにお付き合いができる。いつまでも変わらぬ関係でいられるということではないでしょうか。そういう関係性を築ければ素晴らしいと思います。その意味でも友人を作るつもりで接することで、本物の人脈が広がるのかもしれません。
最初は講師に迎えたい一心で始まったことが、結果として日本一といわれる多様な人脈を形成され、多くの友人ができ、年齢を重ねてから幸せな人生を迎えられた。黄金律に基づいた行動は必ず人を幸せにするということが谷口さんとお付き合いさせていただく中で実感いたします。本誌読者の皆さんにも人脈づくりのゴールデンルールをご理解いただけたかと思います。本日はご多忙の中ありがとうございました。