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東京商工会議所 常務理事
小林 治彦氏
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東京商工会議所 理事・事務局長 湊元 良明氏
- アチーブメント株式会社 代表取締役会長 兼 社長
青木仁志
志をもって、逆境下の中小企業を支援。 私益・公益両立を成す経営者の育成を目指す。
コロナ禍や国家間の紛争などによってビジネス環境が不透明感を増す昨今の社会情勢。そのなかで東京に拠点を置く8万社以上の会員企業を支援し、日本の経済成長の舵取りを行う重要な役割を持つと言っても過言ではないのが東京商工会議所である。コロナ禍での同会議所の支援に、ほぼすべての会員企業が有益だったと答えるだけでなく、1600件もの会員数の増加を果たしている。そして、東京商工会議所の運営に携わる「議員企業」の2022年度選挙に、アチーブメント社が立候補する。今回は東京商工会議所の常務理事である小林治彦氏と、理事・事務局長である湊元良明氏から、これからの社会で東京商工会議所が担う役割と、アチーブメント社への期待などについて伺った。
多様なサポートで中小企業の「守り」と「攻め」を支える
東京23区内の商工業者で構成される東京商工会議所様は明治11年に設立され、我が国の商工業の発展を支え、産業界や地域社会の振興に多大な貢献をされてきました。アチーブメント社としても常々、貴重なアドバイスをいただき感謝しています。
ご存じのとおり東商は、初代会頭を渋沢栄一が務めた民間の総合経済団体です。「経営支援活動」「政策活動」「地域振興活動」という3つの柱を掲げ、商工業の総合的な改善発達と社会一般の福祉の増進に尽力しています。御社には会員向けのセミナーなどで、長らくご協力いただいていますね。
私は32歳のときに起業し、その2年後に東京青年会議所(JC)へ入会しましたが、以降、JCを様々な形で支援している東京商工会議所様とご縁ができ、会員向けのセールス養成講座を担当させていただきました。それをきっかけにセミナー運営などで継続的にご縁をいただいているほか、現在は東京商工会議所内の教育・人材育成委員会にも所属しています。
経営支援活動の一環としてそのようなセミナーを開催するなど、貴所は会員企業に向けて様々なサポートを実施されています。コロナの感染拡大が始まってから2年以上が経過し、その間多くの企業が未曾有ともいえる逆境にさらされてきました。そうしたなかで東京商工会議所様が果たしてきた役割はとても大きかったのではないでしょうか。
おっしゃるとおり、新型コロナの感染拡大を機に、多くの企業が厳しい環境に身を置いてきました。私たちが行った会員向けのアンケートでは、9割の企業がネガティブな影響を受けていると回答しています。そうしたときにこそ、我々は奮起しなければいけません。私は東商オリジナルの渋沢ピンバッジを付けていますが、それには「逆境の時こそ力を尽くす」という渋沢翁の言葉が記されています。関東大震災後、彼はそうした精神のもと罹災者支援や支援金活動に尽力しました。私たちもその精神を受け継いで、この逆境時に一致団結し、企業と産業の支援に尽力しています。
素晴らしい。具体的にはどのような支援をされているのですか。
感染拡大が始まった当初から、主に中小企業を対象とした新型コロナウイルス対策を多方面から展開しています。たとえばテレワークをより迅速に推進していただくために、昨年は関連セミナーを90回実施したほか、補助金や支援金、融資に関するサポートを積極的に行いました。また年間11万件もの相談に対応。23区内の支部や本部の相談センターに、コロナ関連の専門相談員を派遣するなど、以前にも増して手厚い支援を行いました。
ワクチンの職域接種も行い、1回目から3回目までで合計7万回超実施しています。当方の会員の大多数を占める中小企業は、大手企業のように自社で運営する病院や診療所はありませんし、産業医がいない企業がほとんどです。そこで私たちは東京都や東京都医師会といち早く連携し、渋沢ホールでワクチンの接種を行い、中小企業の皆さまから喜ばれました。国からの中小企業向け職域接種の補助金支給がまだ決まっていない段階で、「自腹を切ってでもやろう」と会頭が決断。後に国からの支援はありましたが、結果的にかなりの部分を持ち出しで賄い、企業を支援させていただきました。
「逆境の時こそ力を尽くす」という渋沢翁の精神が、今も脈々と受け継がれているんですね。感動しました。そのように気持ちのこもった支援は、中小企業の方々も大いに心強く感じられていることでしょう。
小林 私たちが行ったアンケートではほぼ100%の会員が、東商の支援が役立ったと回答しています。そうしたこともあって実はかつてないほど新規会員数が増え、昨年だけで1,600件伸びました。逆境のなかで東京商工会議所の存在意義を示せたことを、嬉しく思います。
本当に心が揺さぶられるお話です。そうした団体がこの日本にあるということは、世界に誇れることだと感じます。
人材育成や女性活躍の領域でアチーブメント社に大いに期待
アチーブメント社は今年度、東京商工会議所様の議員企業に立候補しました。そのような立場に就き、自社の強みを活かしながら、会員企業に貢献したいと考えています。
先に述べたとおり、東商では主に3分野の活動を行っています。そのうちの「経営支援活動」について会員企業にアンケートを実施したところ、人材育成について関心が高いということがわかりました。アチーブメント社が議員企業になった折には、人材育成分野でぜひお力添えいただきたいと思っています。またもう一つ期待しているのは、女性の活躍推進に関する支援です。会員企業の多くが女性の活躍を推進したいという思いをもつものの、「求める人材を採用できない」、「さらにスキルアップしてほしい」、「女性管理職比率を高めたい」などの課題をもっています。
コロナ禍にありつつも、昨年当社は経常利益で10億企業の仲間入りを果たしました。そうした企業活動の中核を担っているのが、従業員の65%以上を占める新卒入社の社員です。2014年のデータですが、日経新聞による『就職希望企業ランキング』では、社員数300名以下の企業で最高位を獲得しており、採用や人材育成において高く評価されています。当社が有する採用や人材育成に関する知見を、できる限りお伝えしたいと思います。
アチーブメント社は女性の産休・育休の取得率が100%であり、部署の責任者やリーダーを担う女性社員も数多く、そのような組織をつくるノウハウも、会員企業にお伝えできるはずです。
心強く思います。また青木社長には、起業・創業の一層の促進とベンチャー企業支援についても期待しています。「起業活動率」という指標があるのですが、何を示しているかというと、「18~64歳に占める創業後3.5年未満と準備中の人の割合」です。そのデータを見ると、2019年の時点で、アメリカが17.4%なのに対して日本は5.4%と3分の1以下。他の欧米諸国と比べても低い、ということがわかっています。青木社長にはご自身の起業に対する思いや経験を、次世代の人材へ伝えていただきたい。
当社は1987年に5名の従業員と、500万の資本金でスタートしました。マンションオフィスからの起業でしたが、お客様の企業を発展させることに専心してきた結果、従業員210名、売上40億円の企業に成長できました。将来的には100億企業を目指したいと思っています。創業から35年経ちましたが、今後はより社会に貢献する人生を歩むために、自社のノウハウを積極的にお伝えしていくつもりです。
小林 ありがとうございます。経験と実績に基づいた、具体的なアドバイスをいただけるものと期待しています。
東商は政府に対する提言なども行っています。起業家や経営者へのメッセージはもちろんですが、中小企業への施策に対する要望などについても、青木社長にはぜひご意見をいただきたいと思っています。
渋沢翁の精神に立ち返り、志をもってこの国の未来を拓く
私たちを取り巻く環境は、近年、変化の速度がよりいっそう増しています。企業を取り巻く環境は、今後も変化し続けることでしょう。未来を見据えて、経営者はどのように在るべきだと思われますか。
新型コロナという未曽有の事態が起こり、さらに世界情勢にも大きな変化がありました。環境問題や災害のリスクなども、つねに私たちの傍らに存在しています。そのように多様なリスクに囲まれながら事業を展開する経営者に大切なもの、それはブレない信念をもちつつ、迅速かつ柔軟に、変化に対応していくことではないでしょうか。青木社長の力強い言葉からも、今日それをひしひしと感じました。渋沢栄一は常に「私益」と「公益」を両立せよと主張していました。SDGsを達成しようという意識が世界的に高まるなか、企業活動に注がれる視線はより厳しさを増します。こうした時代にこそ、渋沢翁のメッセージはより強く企業経営者の心に響くはずです。
「私益」と「公益」との両立。大いに共感します。社員幸福度とお客様満足度、そして社会貢献という「三方良し」を実現できる企業を、これからの経営者は目指すべきでしょう。良い人材はそうした企業に集まります。
先ほど「経営支援活動」について会員企業に行ったアンケートで、人材育成への関心が一位だったというお話でした。この逆境下にあって、販路拡大や売上向上などの直接的な支援に目を向けるのではなく、人材育成の重要性を願う日本企業に、大きな可能性を感じました。「今だからこそ人材育成だ!」と。これはすごいことだと思います。
確かに日本の企業や組織には、そうした傾向が強いと感じます。当所自体も人材育成を重視する伝統が、設立の頃から脈々と受け継がれています。東商は2028年に150周年を迎えますが、節目のときを迎えるにあたって私たちが確認し合ったのは、創設者である渋沢栄一の精神に立ち戻ろうということです。渋沢翁の精神とは道徳経済合一説であり、著書にもあるとおり『論語と算盤』です。先ほど青木社長のお話にありましたが、「三方良し」の経営を目指せる経営者を増やしていきたいということが、私たちの切なる想いです。
今の日本に必要なのは、志をもつ経営者です。日本の近代産業の黎明期に、渋沢栄一は500社以上の企業を設立し、日本経済発展の土台をつくられました。また様々な教育・社会事業の立ち上げにも尽力されています。そうした活動の背景には、この国の未来を切り拓こうという大いなる志があったはずです。私たちがそうした意志を継ぎ、この国をもっと元気にするよう力を注ぎたいと思います。
今回伺ったお話は、中小企業経営者の皆さんにとって、とても有意義なものになったと思います。本日はありがとうございました。
1963年生まれ。1987年に中央大学法学部を卒業し、同年東京商工会議所に入所。総務統括部長、理事・産業政策第二部長、2019年より理事・事務局長などを経て、2021年より常務理事に就任し、現在に至る。
1963年生まれ。1987年に中央大学法学部を卒業し、同年東京商工会議所に入所。渋谷支部局長、広報部長、理事・産業政策第二部長などを経て、2021年より理事・事務局長に就任し、現在に至る。